ずいぶん前のことなのですが、心に残るプレゼントがあります。
両親にとっては初めての孫、兄夫婦にとっても待ちに待った長男をさずかることになり、二人暮らしだった両親の毎日は初孫一色になりました。
仕事のため離れて暮らしていた私にもそれが伝わってきました。電話をしてもメールをしても孫の話題です。生まれる前からもう大騒ぎでした。
おじいちゃんっ子だった甥っ子
高齢出産だった義姉は時間のかかる難産になってしまい、それがいっそう孫の誕生を盛り上げることになったのでしょう。義姉の母親はすでに亡くなっていたので我が家の両親がお世話を買って出ることになりました。
赤ん坊のころは毎日のように通っていき、沐浴や食事の世話を楽しんだようです。父も仕事をしていましたが保育園の送り迎えは積極的にしていました。その都合で早退するときには「またお孫さんですか」と笑われるほどだったといいます。
赤ん坊もとても祖父母である私の両親になつき、家の窓にくっついておじいちゃんを待ちわびるようになりました。それを見るとまた父の溺愛度があがり、まさしくベタベタという感じでした。
敬老の日の思い出は青いプレート
そのうちに甥も保育園に通うようになり、保育時間がだんだんと伸びていきました。4歳か5歳ごろのクリスマスに、彼がちいさな包みを持って我が家を尋ねて来てくれたことがあったのです。
毎年クリスマスは我が家に両親と兄夫婦、甥がそろってケーキを囲むことにしていました。その年も両親は甥の好きなキャラクターのケーキとプレゼントを用意して待っていたのです。
そのプレゼントに飛びつくかと思いきや、小さい手で「おじいちゃん、どうぞ」と包みを差し出してくれたのだそうです。なんだろうと開けて見ると、中にはちいさなトレーが入っていました。
青いプラスチックのトレーには紙が張り付けてありました。そこにはたどたどしい文字で「おじいちゃん。いつもおもちゃをかってくれて、ありがとう」と書いてあったのです。
それを見た父は大感激。その日のクリスマスは例年になく盛り上がったのだそうです。休暇で帰った私もそのトレーを見せてもらいましたが、色鉛筆で書かれた文字はまさしくありがとうでした。甥はちゃんと「おばあちゃんもありがとう」と言い添えてくれたそうで、母もとても嬉しそうでした。
甥なりに、綺麗な色どりを考えて一文字一文字書いてくれたのだと思うと、受け取った嬉しさは格別だったことでしょう。プラスチックに張り付けたただ1枚の紙きれですが、それには甥の優しい気持ちがこもっています。きっと義姉が甥をうながして書かせてくれたのだと思います。義姉は賢い人で気配りもできるので、そのことを考えると私まで嬉しい気持ちになったのを覚えています。
高校生になった甥っ子と青いトレ―
そんな可愛かった甥も高校生、見上げるほど背が高くなり、生意気な口を利くようになりました。微笑ましい手紙を書いたことなんか忘れていることでしょう。
でもトレーは今も父の書類入れの一番目立つところに置いてあります。毎日使うペンなどを入れて、大切にされています。ペンに隠れて外からメッセージは見えないのですが、その青を目にするたびに私たちも思い出して嬉しくなってしまいます。甥の素直なやさしさが現れたトレーは何よりの宝物として、これからも大切にされていくと思います。
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